MRSAを治癒させ、生活を取り戻した事例
〜院内感染の疑いのまま在宅へ戻り、在宅で改善したひと月の実践〜
杉淵 美芳 妹川真奈美 菊地七海
有限会社すぎぶちライフプランニングユートピアさんりん舎介護センター

1.はじめに
本事例は、高齢者共同住宅において自立度の高かった(ランクllb)本人が
胃潰瘍の発症をきっかけに入院され、MRSAにかかったケースである。
その事実が退院し在宅に戻 ってから発覚し、在宅で治療することになった。
在宅に戻った当時、一日中ベッドに横たわり、日常生活自立度はランクC1であった。
尿閉を併発し、膀胱カテーテルが実施されていた。
自ら動こうとはせず移乗には介助が必要であった。
流動食から常食へと移行してきても食事摂取量がアップしない為、脱水 傾向となり、
肛門付近に発赤が増加していった。肛門は臥床が多い為腸内に残便があり、
日4〜5回の便がガスと共に少量ずつ出ていた。
当所はMRSAを拡大させない事に無我夢中であったが、
本人の生活は閉ざされたものに なっていた為、振返って考えてゆきたい。

2.事例紹介
A氏   70代 
男性 現病歴  右脳梗塞 高次機能障害 要介護度  3
障害老人の日常自立度 C1
痴呆性老人の日常自立度 1V
食事   箸を使い自立
排泄   テープ式紙オムツ 膀胱カテーテル挿入
移動   車椅子 長谷川スケール 18点

3.倫理的考慮
実践にあたり本人に痛みをとる為のケアを行い、事例報告の承諾を得た。
個人情報にあたる 部分は本人が特定されないように控えさせて頂いている。
共同住宅内での写真を含め、協力依頼文を作成、
本人の顔写真は出さないで報告させて頂く。

4.解決しようとした課題
イ.MRSAに関しての感染予防 
ロ.体力低下 
ハ.意識低下
5.現状分析とケアの経過
本人のMRSAは、痰からプラス1(そこで本人に対しては)
本人=抗生物質の服用、 うがい、痰を出す、
ケアする側=本人の部屋・寝具・床・ベッド周辺の消毒・除菌作業、
予防衣・グローブ・ マスクの着用、専用スリッパ、うがい・手洗い
食事の取り組み
痛みへの取り組み
イ.全身が痛い ロ.陰茎の先が痛い ハ.オムツかぶれが痛い

6.結果
H23/2/19入院 同2/22退院 入院による認知症状の悪化により退院が早まる。
単に胃潰瘍であれば退院後は近所のフォローして頂きながら疾患を治していき、
共同住宅の 入居者から励まされ生活を取り戻していく過程をたどる予定であった。
MRSAという病気から急に隔離状態を余儀なくされ、
認知症の本人にとっては大きなストレス ・悲しみ・寂しさが一気にのしかかることとなった。
徐々に食事の回復が行わなければならない時期に食事拒否を訴え、かつ皮膚トラブルに繋がっ た。
隔離生活をしている時は訪問介護員がお世話にいっても言葉が少なく、
反面ナースコール は頻度が多くなっていった。
なかなか食事が摂取できずカロリーは800カロリー位にしかおよばない。
いくら離床し室内で運動しても本人の気晴らしに繋がらずイライラ大声を出す反面涙ぐむ姿が あった。
「もう生きていてもしょうがない」「殺してくれ」と叫ぶことも。
H23/3/24 菌認められず
病院でこの報告を告げられ、やっと隔離生活が終了した。
皆でいる食堂に出て「良かったね」 と言われる度に眼を潤ませていた。
3/23から始まったラップ療法は、本人の離床頻度・ポータブルトイレの利用頻度に安心感が
加わり効果を上げていった。

7.考察
認知症をかかえる利用者に孤独にさせないことは不安にさせない、
見当識を悪化させないために重要なことであった。にもかかわらず、この度は隔離生活をせざるを得なかった。
これは単に独居ではない共同住宅に入居されているということが大きな壁となり、
本人を苦し ませることに繋がってしまった。
MRSAへの対応を加速するあまり、本人の苦悩が増していった。
意欲を引き出すために試行錯誤を重ねてきたが、大事な本人への病気の説明がたりなかった。
白衣に包まれたケア者に囲まれ、どんどん不安になって追い詰められていった心に気付くのが 遅かった。
認知症を抱えているからこそ心の動きをより密に感じ取り細かな配慮が必要であると痛感した。

○発表を終えて
1年に一回でも、自分たちのやってきたことを、ふりかえることが必要だと感じていた。
どの方に関しても一生懸命にと取り組んできたことが、本当にベストな取り組み方だったのか
もっと別な方法があったのではないかという思いがよぎる。
今回のケアは、共同住宅と環境として、辛いケアであった。
誰かに感染させてはならないという恐怖と常に戦っていた。
職員が熱を出せば...もしやと...疑った。
入居者が通っている通所事業所からマイナスになるまで参加は見合わせてほしい、
また 確実に接触がなくても検査を受けてからの通所をと申し出があった。
自分の身体に消毒液を噴霧し、何度も側に寄り添った。
「殺してくれ」という本人に、どう言えば病気のことが伝わるのか悩んだ。
結局、好きなものを口にしてもらい、早く菌を消滅させるために体力をつけてもうらうことに
精一杯だったような気がする。
寄り添っても寄り添っても、本人の認知症の状態で病気を理解することは無理であった。
本人を苦悩から救ったのは、一同に介する食堂での入居者とのおつき合いだった。
ケア者ではなく、住人の「よく頑張ったね」の一言で、彼は、安堵の顔を見せた。
入居者との関わりが、一番の特効薬だったのかもしれない。

※事例報告は2010/2中旬より2010/3末までの状況を取りまとめたものです。

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